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近藤幸夫さんの訃報
一昨日の夜、twitterで慶應義塾大学の近藤幸夫先生が2月14日に亡くなったこと
を知りました。
あまりにも突然のことで昨日は一日頭が回らない状態でした。

近藤さんは2000年くらいから(米粒でドローイングをしていた頃)作品を見て
くださって、その後の展開も大らかに見守ってくださった方です。
2007年にアート・バイ・ゼロックスで展覧会をする時には、
サバチカルでパリに行こうとする近藤さんに、無理言ってお願いしてテキストを書いて
いただいたこともあり、展覧会は早めに帰国して見てくださいました。

その後もずっと応援してくださってとても有り難かった。

下に2007年に書いていただいたテキストをペーストします。

私も向こうにいった時に、あれからこれ作ったんですよ!と報告できるように
もう少し頑張ります。
ありがとうございました。
ゆっくりお休みください。

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  作家とは多かれ少なかれあるひとつのヴィジョンへと向かって制作していくものでは
ないかと思うことが多い。しかし、最初からそれに気がつくことは少ないようだ。作品を制作していく過程で徐々に明確になっていくもののようだ。齊藤ちさとにとっての「きらきらと輝く粒子」もそれにあたる。

 このテキストを書いている時点で私は今回のABXで展示される齊藤の作品をみてはいない。しかし、事前におこなったインタビューのなかで齊藤は2005年の府中市美術館の公開制作で発表した「気泡」作品の延長上にあるような作品を出したいと言っていたと思う。府中で発表した「気泡」作品とは炭酸水の泡を描写したアニメーションであった。手描きアニメーションという膨大な労力を費やして齊藤はなぜこのイメージを実現したかったのだろうか。齊藤が「気泡」を発見するのは、その年の5月のパリだという。カフェのテーブルで、初夏の明るい光を受けたコップのなかできらきらと光りながら立ち上る無数の泡に齊藤は魅せられ、自分の追い求めていたヴィジョンはこれだと思った。

 もともと齊藤は透明なビニールシートに米を貼り付けて様々なイメージを作る作家として知られていた。齊藤によれば、このような米の作品を作るきっかけとなったのは、中沢新一と河合隼雄の対談「ブッダの夢」を読んだことだという。世界は点でできているというチベット仏教の考え方と最新の素粒子理論に共通する部分があることに興味をもった齊藤は、まずこの世界観を米粒を使った作品で具体化してみようと考える。歯など身体の一部から始まり、トイレや下着といった身体と接するもの、雲、飛行機、日常的な室内などといったように、自分の体から世界が広がっていくような様々なイメージが米粒によって描かれた。しかし、このような具体的なイメージは齊藤の求めていたものとは少し違っていたようだ。特に米という様々な意味性が纏わりついた素材を使うことにも抵抗があった。米という素材はともすればアジア的なもの、エキゾティックなものと解釈されかねない。

 2000年前後に齊藤はいちど米の作品からはなれる。替わって登場するのがクローバーのシリーズである。この作品は、日記を付けるように毎日単純なクローバー形を水彩で描き続けることから始まり、次にその上に透明なビニールシートをおいてトレースするようにひとつひとつのクローバーを丁寧にカッターで切り抜く。それぞれの形が微妙に異なるビニールのクローバーはインスタレーションとして使われ、切り抜いた後のビニールシートも写真作品に使われた。床面に並べられた無数のクローバーはきらきらと太陽の光線受けて輝く。無数のクローバー形が切り抜かれたビニールシートを通してみる景色は、ちょうど炭酸水の入ったコップ越しにみる景色と同じようにきらきらとした粒子に包まれる。

 このように齊藤の作品は、具体的なイメージの描写が徐々に「きらきらと輝く粒子」に包まれた世界といった明確なヴィジョンへと純化されていく過程とみることができる。齊藤の作品をみていると、平凡な日常のふとした発見のなかに深遠な世界への入り口が潜んでいることを私たちに教えてくれているように思われてならない。

(近藤幸夫 慶応義塾大学助教授)

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