事情あり、教育関係の講習を受けています。
その中であれ?と思ったこと、言葉の使い方を捉え直したいことが出てきましたので
メモしておきます。
ワークショップという言葉。
美術分野では「造形ワークショップ」となります。
ワークショップの語源は「作業場・工房」と「講習会・実習」ですが、
造形ワークショップにおいては「あらゆる造形の楽しさをあらゆる人たちが享受するための営み」
を示しており学校教育とは異なる背景を持って登場しています。
学校での美術教育は、美術に関する知識や技術の習得などが重要であって、
それは教育課程に位置付けられ教師による評価の対象となるのですが、造形ワークショップはそうでなくて
・知識や技術の習得や資格の習得を目的としない。
・制作や鑑賞を中心に造形の楽しさを、参加者が場と時間を共有して享受できるための活動をさす。
ということになるそうです。
つまりワークショップは本来純粋に作る楽しさや喜びを享受するためのものであって、
成果物が評価の対象ではないということです。
つまりそこにご利益を期待してはいけないと。
いけないことはないでしょうが、するものではない。ということのようです。
ただし、その手法を取り入れることによりアクティブ・ラーニングの活性化や、
言語活動としての「鑑賞」と非言語活動としての「表現」を循環させる働きが期待されている。
というのが近年造形ワークショップに対する捉え方となります。
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「アクティブ・ラーニング」
2017(平成29)年から注目の集まった言葉で「主体的・対話的で深い学び」と定義される。
この年に文部科学省から発表された学習指導要領において、漢字を暗記する、
計算方法を練習する、コツコツと一人で作業することで基礎・基本を身につけることを
大切にしながらも、
教室の生徒が個々に考えて明確にしたものを他人にも伝えるというアクティブな学びが強調された。
こうした応用的な能力を「思考力・判断力・表現力等」と呼び、
また「学びに向かう力・人間性」も不可欠とし、
この二つと「知識・技能」を合わせて、資質・能力の三つの柱と定義した。
これらの資質・能力を伸ばす方法として主体的で対話的で深い学びがアクティブ・ラーニングとして位置づけられた。
参考資料:高橋陽一『ファシリテーション技法』武蔵野美術大学出版局
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上記のことを踏まえ、前期に行った講義について総括しました。
以下
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私は縁あって農業大学で12年ほど美術に関する講義を担当していて、
毎年の講義時間内に簡単な造形ワークショップを行っている。
シュルレアリスムの作品群を紹介してから、フロッタージュを行うというものだ。
座学であっても手を動かす作業を挟むことで学生の満足度が高い。
また、数年前にこのシンプルな造形ワークショップが文科省から求められている
アクティブ・ラーニングに該当していると教務から喜ばれて、
初めて「アクティブ・ラーニング」という言葉を知った。
今年の遠隔授業は、オンデマンド教材を学生が都合に合わせてダウンロードして
各自学習する方式をとった。
目の前で強制的に授業が展開して行く対面授業とは違い、
遠隔授業では学生が主体的に<参加>の意志を持ち教材を開き、
展開される様々な美術史上の作品について<学習>していく。
授業の補足としてsnsアカウントを開設して学生と交流を試みた。
教材の不具合を指摘されることもあれば、
彼らの生活も垣間見ながら意見や感想を聞けたのは
彼らと授業を<協働>して作り上げたような一面もあり興味深いことであった。
また緊急事態が解除され美術館での展覧会が再開した折には教材に関連した展覧会、
ピーター・ドイグやオラフォー・エリアソン、国立西洋美術館や東京国立近代美術館のコレクション展など、
実際に作品のある空間を<体験>してきた学生が、
特に求めなかったが自発的に報告や感想文を送ってくることもあった。
また、恒例の造形ワークショップはYOU TUBEにアップした動画で自習するか、
リアルタイムの双方向で行うかどちらか選んで参加してもらった。
遠隔授業において、学生と直接対面しない講師は教師というよりはファシリテータに似た存在で、
オンデマンド教材を「媒介」と捉えるならば海後宗臣の定義する教化に近い。
さらに、終盤に創作課題を設定した。ダダのアーティストのコラージュを参照し、
各自が自作のマスク(実用的でないものが望ましい)を作り自撮りした画像を提出してもらった。
また教材での学習を前提に不要不急というテーマでレポートを書くことを求めた。
創作と言葉を使った課題に取り組むことは、言語活動と非言語活動の往還を経ることになり
創造的なイメージが多数作られる結果となった。
最終的に成績をつけるという行為を伴うことで純粋なワークショップではないが、
造形ワークショップの要素を取り入れることで、
講義全体がワークショップに近い性格を帯びて活性化したのは興味深いことであった。
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