8日にスタートした個展の会場で配布しているステイトメントのテキストをアップします。
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気泡 ケ 藝術
2015年の暮れから2020年の3月まで築地の日本茶専門店で働いた。
世界的なパンデミックが始まるまで築地は、人々の生活を支える「褻(ケ )」の場所でありながら
「東京の観光地」となっていて、過剰なケがひっくり返りハレたかの混沌とした空間だった。
朝の地下鉄の改札口は観光客で溢れ日本語がほとんど聞こえてこない。
ここはどこだ?
中国、韓国、香港、台湾、マカオ、ベトナム、シンガポール、タイ、マレーシア、インドネシア、
インド、ロシア、イスラエル、ヨルダン、UAE、イラン、トルコ、エジプト、ケニア、イタリア、
フランス、スペイン、スイス、ドイツ、オランダ、ルクセンブルグ、チェコ、オーストリア、
スウェーデン、デンマーク、アメリカ、カナダ、メキシコ、チリ、コスタリカ、アルゼンチン、
ペルー、ブラジルetc.
「Where did you come from?」と人々に尋ねたら返ってきた答えだ。
彼らに茶を振る舞い、急須の使い方や茶筅の振り方を片言の英語で必死に説明した。
茶を挟んだ異文化の人々との平和な時間を時々思い出す。
そういえば築地は幕末から明治にかけて外国人居留地だった歴史を持っていて、
そこに世界各地から再び人が集まるのは感慨深い。
(日本のサッカー発祥の地でもある)
ところで築地市場は1935年に日本橋から移転・開場した。関東大震災からの復興だった。
それから80年余を経て2018年10月6日に閉場、同月11日に豊洲市場が開場した。
築地市場の歴史は市場本体「なか」と場外市場「そと」が対で発展してきて、多くの会社が
「なか・そと」双方に店舗を持つ。
豊洲の新市場には「なか」のみが移転した形で、「そと」は築地に残っている。
今回の展覧会は、2018年の移転直前の築地市場、2021年に移転後・パンデミック下の豊洲
市場・築地市場跡周辺、2つの時期に撮影した画像のラムダプリントで構成する。
日々の営み(褻)と藝術は位相が異なる人間の営みだ。(文字は少し似ている)
しかし違う位相は地続きでもある。
生活の営みが過剰になると、境界を突破して何かとぶつかり稀に人文的な視点を持ち始める。
その稀有な邂逅をはす向かいの築地本願寺のお坊さんなら「縁」と呼ぶだろうか。
諸行無常の原理だけが不変の世界を私たちは今も昔も生きていて、近年は世界的な感染症の蔓延、
侵略による戦争、あらゆる物価の高騰、元首相の暗殺とカルトによる国家の支配、政治も経済も混乱が続いている。
苛烈さが加速する諸行無常の世界を見届けるだけでなく、
誰かに届けるためにケの営みを点や線や面に変換して重ね合わせてひっくり返す。
戦国時代、利休が市中に山居を生み出したのに倣って
斎藤ちさと